2016. 12. 19  
 手根管症候群(CTS)をセラピストの立場から診ると腱鞘炎のコントロールと正中神経の滑走の拡大が基本となります。

 “CTSに合併するばね指”的な報告は多々あり発症頻度は3割程度のようです。しかし、ばね指は腱鞘炎の病期の一過程にすぎず、ばね指が生ずる前の初期の段階から通過障害による関節拘縮の末期までを含めるとCTSの6から7割は腱鞘炎を合併するものと思います。自験例では55~64%での合併でした。

 手根管内の滑膜の腫脹により手根管内圧が高まって正中神経を絞扼するならば、内圧を下げて絞扼を解除すればいいのです。では、非観血的な立場のセラピィで何ができるのか?

 運動療法とスプリント療法、物理療法を駆使して絞扼解除する方法を考えなければなりません。

 腱鞘炎を鎮静化するためには安静が不可欠ですが日中の固定は拒否されてしまいます。夜間固定しか望めません。また、就寝時の手指は屈曲位をとりますので示指と中指の屈筋腱が正中神経に接近し加圧してしまいますので指は伸展位とした方がいいのだろうと考えました。手指を伸展固定することはA1プーリーも減張を図れますので一石二鳥となります。そういうことで夜間固定用のスプリントは手関節中間位、手指伸展位固定としました。想定通り効果的です。

 次に、腫脹と熱感に対するアイシングです。炎症により拡張してしまった血管を冷やすことで縮小させなければなりません。浮腫と熱感が改善してくるとこわばり感も改善してきます。
 理解されているようで理解されていない点ですが、炎症部への温熱療法は禁忌であるということです。日本人は温泉に関しては手放しで受け入れてしまう国民性です。調子が悪いと温泉または熱めのお風呂と考える方が多いようです。医療従事者の中でも、「取り敢えず温めましょう」的な方が多いようです。卒然教育で学習済みのはずですが・・・。
 私の日常臨床では温熱療法としての加熱よりもアイシングの使用頻度がけた違いに多く、手外科領域の手は炎症状態への配慮が必要であると思います。

 浮腫に関しては短時間でも高挙手での手指屈伸運動を行う必要があります。正中神経の神経滑走運動でいつも以上に症状が誘発されていた方に、5分間の高挙手後、再度正中神経の滑走運動を施行したところ症状は誘発されませんでした。浮腫の可及的な除去が必要であるということを痛感させられました。


 私が提唱した腱鞘炎の病期分類では、腱がどのように腱鞘を通過するかで分類しております。クリック、弾発現象(ばね指)、通過障害、拘縮などで、ここでは痛みやこわばりの有無は考慮しておりません。ここでいう腱鞘はA1プーリーでMP関節掌側にある掌側板に付着しております。腱鞘炎例の多くはMP関節の過伸展が制限されるという事実はご理解できますか?炎症により腱鞘は拘縮に陥り、その結果、掌側板の伸張が妨げられMP関節の伸展が制限されると考えられます。ですから、腱鞘のストレッチにはMP関節の過伸展が必要となります。
 手根管内の滑膜の腫脹では屈筋腱の滑走制限が生じます。手指の屈伸制限の原因となることがあるため腱滑走の運動の拡大を図る必要があります。
 このようにして滑膜の浮腫が改善すれば手根管内の内圧が軽減し正中神経の除圧が図れます。

 絞扼性神経障害を診ていく上でもう一つ改善しなければならないものが神経の滑走です。絞扼されてきた神経は癒着し滑走が制限されています。神経の滑走が制限されていると関節運動により容易に神経に緊張がかかり症状が誘発されてしまいます。神経は関節の運動により緊張が増すと緊張勾配を均一化しようと緊張部位へ向かって滑走するという特徴を利用し滑走の拡大を図ります。

 CTSでも他の絞扼性神経障害同様にセラピィの適応を考慮しなければなりません。手術絶対適応なのにセラピィを行っても効果はありませんし、逆に病期を進行させてしまう可能性もあります。セラピィの適応の裏には手術適応がありますが、施設ごとの適応があり統一した見解がありません。

 手術を選択した例では、「CTS(正中神経障害)」+「腱鞘炎」+「手術の合併症」と手術の合併症が加算されます。後療法は術前の機能障害と術後の合併症対策であり、セラピストは問題内容を想定して早期に介入しなければなりません。CTSの後療法では、術前の腱鞘炎、滑膜の腫脹と、術後の浮腫と腫脹、神経と腱の滑走制限または滑走制限の可能性、ROM制限または制限の可能性を想定して早期に対応する必要があります。早期対応の理由は予防が最善の対策だからです。そのためには早期介入のリスクを把握しておく必要があります。
2016. 12. 13  
 手根管症候群のop後の患者さんについて教えてください。

 手根管症候群で確か3年くらい前から母指~中指にかけて痺れがあり、先生から勧められて手術をしました。
 術後痺れからこわばりに変わり、母指~小指に拡大、表在感覚はありますが深部感覚鈍麻。
 最近はこわばりは強くなり痛みもあると言います。
 本人の話では術前は痺れのみでADLに何の問題もなかったが、術後は箸を持つとか何かをつまむ、蓋を開ける、下着のホックをつけるなどいろいろな巧緻動作ができなくなってます。
 特に右手の対立運動や、虫様筋が弱化しててMMT2レベルです。左は4くらいあります。

 先生は、術前も深部感覚や対立は弱くて術後悪くなってるとゆうより変わってない、とは言ってます。
 ただ手術の記録では右の正中神経はかなり細くなってた的なこと書いてます。

 このこわ張りは今後治ってきますか?



 ご質問ありがとうございます。

 手根管症候群(CTS)に対して手根管開放術を施行し、術後にこわばりが生じてしまったという症例のようです。
 
 このこわばり感は腱鞘炎によるものと解釈できます。CTSに腱鞘炎が合併するという報告は多々あり、自験例ではCTSに6割に合併しておりました。
 また、術後の合併症として浮腫や腫脹を呈している手で自動運動を繰り返して行うと腱鞘炎を発症ないし増悪させますので、他動運動によるROMの拡大を図るべきです。

 手術前から発症していた腱鞘炎なのか、手術の合併症として結果的に生じてしまった腱鞘炎なのかは分かりませんが、腱鞘炎を鎮静化していかないと、腱鞘炎由来のStiff hand(硬い手)となり、不可逆的な拘縮手となりますので注意して下さい。

 腱鞘炎が沈静化するとこわばり感も消失します。腱鞘炎には繰り返される自動運動と温熱療法は禁忌ですので注意して下さい。

 浮腫に対しては高挙手、腫脹や熱感に対してはアイシング、ROM制限は愛護的に他動運動で徐々に拡大して下さい。運動による痛みの誘発には十分に注意を払って下さい。恐らく手指屈筋腱の滑走の制限が生じていると思いますので滑走の拡大も図るようにして下さい。

 正中神経に対しては神経滑走運動により滑走の拡大を図って下さい。

 最後に、「こわばりは今後治ってきますか?」とありますが、治療者が治るように誘導しなければ治るものも治りません。病態に即したプログラムを立案して下さい。
2016. 11. 24  
 上肢帯には肩関節、肘関節、手関節、MP関節、PIP関節、DIP関節と複数の関節があり、単関節に可動域制限が生じている場合、隣接する関節の影響を受けていることもあります。また、手関節の背屈制限に伴う手をつく動作が制限されているケースでは、頚部の向きによっても影響を受けることもあり、頚を含めた上肢帯全体を評価する必要がります。

 関節可動域の拡大を得るためには、初めに単関節の可動域の拡大を図ります。
 画像を確認し、強直や関節裂隙の狭小、関節内骨折などの関節包内の損傷状態を観ます。関節包内の損傷がある例では、関節可動域の拡大は短期的には改善しますが長期的には制限が生じてしまいます。このような例では関節可動域の拡大が有益なのかを検討すべきです。

 単関節での可動域の拡大は、筋腱の影響を取り除くために“減張位”で行います。手指であれば複数の関節を対象としますが、時間を要しますが個々の関節で丁寧に行うことが肝要です。


 次に、筋腱の滑走性を拡大するために2関節、3関節と複数の関節を操作しての可動域の拡大を図ります。
 腱では腱滑走の拡大、筋では筋伸縮の拡大です。
 キーワードは腱固定効果陽性です。腱の癒着、腱の通過障害、筋性拘縮などが列挙されます。

 腱滑走の拡大は自動運動と他動運動を組み合わせます。屈筋腱では自動屈曲と自他動伸展運動、伸筋腱では自動伸展と自他動屈曲運動です。

 筋性拘縮では筋の伸張だけを図るのではなく収縮と伸長、つまり筋力と柔軟性を作ります。筋硬結を認める際には、マッサージなどで解してから伸張します。伸長は起始停止と筋腱の走行を考慮して行います。

 この関節、筋腱の可動域の拡大は日常臨床で当たり前にやられていることですが、もう一つ考慮すべき組織があります。末梢神経です。

 末梢神経は深部組織に固定されず関節運動と共に滑走したり伸張したりします。
腱のように滑走するわけではありませんが、関節運動により緊張が増すと緊張勾配を無くすように全体的に緊張部に滑走し緊張勾配を解消しようとします。何神経のどの部位を近位または遠位に滑走するかで肢位は異なります。神経の緊張には頚椎の運動も参加します。同側側屈では減張、対側側屈で緊張となります。

 神経の伸張は筋のように伸長もされます。筋の場合には伸長痛が生じ痛みに合わせて時間をかけて行いますが、神経の場合は、しびれや痛みが誘発される場合には伸長が強すぎるので加減しなければなりません。また、症状誘発とは神経の阻血を意味しますので伸長時間は長くとも10秒程度に留めなければなりません。症状誘発を無視して長時間行いますと神経麻痺となります。この点に関しては、同じストレッチでも筋と神経とでは区別しなければなりません。

 痛みやしびれを訴える例では、神経の滑走が妨げられている例が多く見受けられます。手根管症候群や肘部管症候群など絞扼性神経障害でも神経の滑走が制限されます。

 神経の滑走制限は神経固定効果の有無で確認していきます。
 筋短縮や筋硬結は触診で、腱癒着は腱固定効果で明確に知り得ることができますが、神経固定効果、可動域の制限としびれと痛みの誘発と緩解で評価します。

 神経固定効果陽性では筋のように伸長するのではなく滑走の方を拡大します。中には、伸長させなければならない症例もありますが、ほとんどの例では滑走の拡大で十分です。

 このように関節の可動域の拡大には、関節自体、筋腱、神経の滑走状態を評価することが大切です。私はこの神経滑走を取り入れたことにより、より多くの症例の症状緩解に貢献できたものと自負しております。
2016. 11. 11  
 Subclinicalとは、器質的に障害はあるものの、臨床的に症状を呈していないと定義されます。
 つまり、自覚症状はないけれど、他覚的所見を認めるということです。


 手根管症候群が疑われると神経伝導速度検査で神経の伝導状態を確認します。
 検査は通常両手で行われます。その際に、しびれていない側の手に異常所見を認めることがあります。しびれという自覚症状は無いのですが、手根管症候群の重症度の一指標となる短母指外転筋の終末潜時の延長を認めますので、Subclinical CTSと診断されます。
 Subclinical CTSと診断しても積極的には治療しません。夜間痛や起床時のしびれという自覚症状が生じはじめたら受診するように勧める程度です。


 手術後、後療法を開始して間もなく腱鞘炎が発症する例を経験します。このような例はけっして少なくありません。
 これまで術後に腱鞘炎を発症する例は、リハビリと称して頻繁に自動運動を繰り返した結果と解釈しておりました。リハビリを処方するとすぐに腱鞘炎を作ってしまうとまで言われた時期もありました。

 術後すぐに腱鞘炎を認める例を経験したことから、Subclinicalな腱鞘炎によるものではないかと考えるようになりました。
 多くの例で非手術側の手にも腱鞘炎所見を認めることが出来ます。
 潜在性に腱鞘炎があり、外傷や手術による手の浮腫や腫脹が腱鞘にも波及し腱鞘内腔が狭窄し腱滑走により腱鞘がしごかれ、腱鞘炎が発現されたのだと思います。


 橈骨遠位端骨折後のリハビリでの遅発性に正中神経障害を呈する手根管症候群も、Sub-clinicalな腱鞘炎ないし手根管症候群の結果の症状発現と考えられるのではないでしょうか。


 そうしますと後療法を進めていくうえで術後の合併症対策とリスク管理に加え、Sub-clinical対策も必要になるのだと考えます。
2016. 11. 03  
 阿部先生。先日は丁寧にご回答頂きありがとうございます。

 右手しびれとMPのこわばりを訴えていた主婦の者です。
 先生のブログを拝見してからストレッチ、家事も極力控え鍼治療も行きながら若干痺れは和らいだ感があります。ただ右手親指の母子球上側?あたりにポコっと5ミリくらい骨ばった部分が手を開くと見えます。こんなに骨が見えていただろうか?と不安に思っています。指をつけて手の平を見るとそれなりに母子球はふっくらしているのかな…とも感じていますが…。

 右腕を上げると手のひらに響いたり胸郭出口症候群を疑うような症状もありますが整形外科からはビタミン剤以外の加療はありません。

 加えて9月入ったあたりから利き手ではない左手の親指と人差し指の手の甲側の筋肉が痩せたような感覚があり左手は親指が使いにくいと思っています。
 鷲手とはいえないような様子ですが以前に比べてOKサインが綺麗に作りにくいです。
 尺骨神経は検査しても悪くなくこの手の違和感はなんなんだろうかと一日中考えてしまいます。

 ドクターからは痛いならトラマール、痺れるならリリカと言われましたがそれは根本原因にアプローチしていない気がしています。

 今後神経内科に行った方がよいのでしょうか。
 手の状況を直接お見せしないまま質問してとても恐縮に思っています。
 ただ近隣の手外科数件も行きましたが様子を見ましょうとの回答で疑問が残りました。
 私が気にしすぎなのでしょうか。

 なんとかして治したい一心でメールさせて頂きました。何か助言頂けましたら有難いです。
 どうぞよろしくお願い致します。
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 前回教えて頂いた横向きになって手の痺れが悪くなるか?についてですがあまり変わらない気が致しました。

 ただ歯科治療中、一度左手指全て痺れ出したことがあります。肘はそんなに曲げていませんでした。痺れがいつ増悪するかがあまり再現できませんが右手挙上で肩が音が鳴り手の平に血液が逆流するような感覚があります。
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 返事が遅くなりすみませんでした。
 数件の医療機関を受診されて様子を観ましょうとのことですが、診断名は同一の内容だったのでしょうか。診断がつかなければ治療になりません。
 納得できる説明が欲しいですね。
 実際に手を拝見しておりませんので問題解決には限界があります。私の意見では何も解決できないものと思います。
 手根管症候群と腱鞘炎の印象がありますが、神経内科の受診もありだと思います。
 これまでの経過をお伝えし、納得できる説明がなされないと率直に伝えてみては如何でしょうか。
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プロフィール

阿部幸一郎

Author:阿部幸一郎
作業療法士、認定ハンドセラピスト

 日常の臨床で手のリハビリに携わるセラピストを応援し、自分自身も切磋琢磨することを目的に、2011年7月にこのHAND maintenance studioを発足致しました。
 特に、指導者がいないセラピスト、数少ない手外科の患者をどのように診ていいのか迷うセラピスト、総合病院で手外科に専念できないが興味があるセラピストなどを応援します。
 そのため定期的な手のリハビリテーション(ハンドセラピィ)に関するセミナーを企画開催しております。
 また、手のことでお悩みがある方に対しては相談や運動指導を直接行っております。
 ご遠慮なく、訪問して下さい。

Twitter:@hand_abe(フォローをお待ちしております)

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