2017. 04. 10  
 腱縫合術の後療法では、合併症である腱癒着を予防し腱滑走の維持・拡大を図ります。
 癒着は病的反応ではなく正常な創傷治癒の反応です。ですから癒着を前提に対応しなければなりません。癒着がなく滑走状態が良好な例では“創傷治癒が不十分”と解釈し抗張力の強い運動や作業は遅らせるべきです。

 術後の合併症には、癒着の他に外傷や手術による腫脹や熱感、痛みなどの炎症反応も生じます。腱滑走運動に先立って坐薬での除痛やアイシングにてこれらを可能な限りコントロールする必要があります。

 よく“癒着を剥がす”と言いますが、剥がすものでしょうか?
 気持ちは理解できますが、剥がすことに執着すると強力な運動を強いることとなり断裂のリスクが高まるのではないでしょうか。

 例えばPIP関節の脱臼で掌側板が損傷し深指屈筋腱と癒着する例は経験するものです。
 当然、関節可動域の制限も生じます。関節可動域だけを拡大しようとしても腱が癒着しているのでなかなか可動域の拡大を得ることができません。他動的な可動域拡大を図ってから腱滑走運動を繰り返すことにより“グズッ”と剥がれ一気に自動屈曲が拡大することがあります。腱が剥離された瞬間です。局所的な癒着の剥離は可能ですが腱損傷のない症例に限ります。

 腱断裂後の縫合腱の場合、このように剥がれるという経験は私にはありません。
 “グズッ”となったら断裂です。“グズッ”と同時に自動屈曲が不能ということになります。腱縫合後の腱癒着は剥がすのでなくルーズにして可動範囲の拡大を図る感じです。持続的な自動運動、他動運動にて癒着組織に緊張を加えていきます。

 次に、腱縫合の危険因子です。当然ながら腱の再断裂となります。
 再断裂は最悪な状態ですので強引な滑走は慎まなければなりません。腱縫合部が腱鞘を通過できない例、抗張力の弱い腱縫合例、感染や汚染された腱・腱周囲組織例などでは、早期自動運動は適応外だと思います。
 今ではほとんどが術後翌日からの後療法となっておりますが、仮に術後1週頃に処方された場合、抗張力が弱いのに癒着が既に生じているので、早期自動運動療法はハイリスクとなります。

 この腱癒着と再断裂を回避し本来の腱の滑走を得るためには、腱縫合部に過度な緊張が加わらないようにする必要があります。
 
 「過度な緊張」
 屈筋腱での過度な緊張は、強力な自動屈曲、自・他動伸展と言えます。
 伸展拘縮の指を制限以上にまたは屈曲不全以上に自動屈曲させようとすると等尺性の運動が抵抗運動となり過度な緊張がかかります。可動可能な範囲内での自動運動とStop & hold運動にて他動的に屈曲し努力下での屈曲保持は行わせないことで過度な緊張を回避することが出来ます。経過日数により抗張力が高まりますので、どのタイミングでどのような自動屈曲を入れるかは担当医と取り決めておく必要があります。


 「減張位」
 腱縫合の後療法で減張位を常に意識しなければなりません。
 “腱縫合部への緊張を減らした肢位”。
 腱縫合部に対して末梢方向と中枢方向との両端から張力を加えると腱の再断裂のリスクは高まります。そのため、リスクを回避するために一端を緩め反対側に緊張を加えます。
 中枢側への滑走は筋収縮のみで行われますので力の入れ具合を指示しなければなりません。

 ちなみに、数名に健側で握力計を握りながら(表示は見せないで)5割程度の握りを指示すると7から8割くらいと超過していました。安易に「○割程度の力を入れて」とは言わず、健側手でこれ位ということを実感してからの方がセラピストと症例間での力の入れ具合が共有できるように思います。
 屈曲保持運動では他動屈曲位を強力に保持するのではなく、その位置に留まる程度の握りとします。保持できなく伸展してしまっても努力下に屈曲しないように指導すべきです。
 私は癒着をルーズにしたい観点から、10秒10回の屈曲保持運動と持続的な他動伸展を繰り返し行うようにしております。

 末梢方向への滑走は、中枢側の関節で緊張を減じ末梢側の関節の自動・他動運動にて行われます。減張位は張りを減らすことであり張りがない状態ではありませんので関節運動と癒着部との位置関係を考慮して強弱をつける必要があります。出来れば癒着が僅かな早期の段階から完全伸展を維持することです。

 腱の滑走に関しては、腱の強度(抗張力)と自動屈曲の強さ、他動伸展の強さを考えなければなりません。外傷による反応、腱鞘の損傷状態や修復状態、腱縫合後のボリューム、患者さんの協力、セラピストの技量など多くの要因により結果に相違が生じることを日々痛感させられております。私にとって未だ気が抜けない領域です。
2017. 03. 27  
 ブログ拝見させて頂き、大変勉強になります。
 難渋している患者さんがおりまして、質問をさせて頂きたいと思います。
 他院にて腱鞘切開術(右示指MP関節掌側)を行った方で、術中より痛みを徐々に感じたようで、術後は、腫れや痛みが広範囲に出現したとのことでした。
 2週間後、抜糸したのですが、化膿しており術部に膿が溜まってしまったようです。抗生剤をその後2週間行いましたが効果なく、薬を変えて再び2週間行った所状態が良くなり、抗生剤を終了されたようです。
 しかし、2か月間変化がなく当院に受診されリハビリのオーダーがありました。リハビリはなかなか進まず、示指の腱を軽く押すだけで徐々に腫れが出現し、冷やすと痛みが増すとのことでした。また、橈骨動脈を圧迫すると術部周囲に痺れが出現しました。日常生活では、水など冷たい物をふれると肘内側に強い叩打痛を覚えるとのことです。旦那さん、息子さんにサポートをしてもらいながら過ごしています。茶碗洗いなどの動作後、術部が赤黒く腫れ、手指まで動かしにくくなるそうです。リハビリは、軽い可動域EXだけを2回行っただけです。最近は、ノイロトロピンという薬で症状が緩和・消失してきました。



 ご訪問ありがとうございます。
 難しい症例ですね。腱鞘切開出後に感染されたということから、腱癒着は広範囲なものになっていると思われます。腱癒着のみであれば痛みや叩打痛は生じません。指が動かない、硬いといった運動障害が中心になると思います。

 神経性疼痛が二次的に生じているように思います。橈骨動脈のすぐ尺側は橈側手根屈筋腱、その隣には正中神経が走行しており、正中神経の何らかのストレスによるしびれなのかもしれません。

 茶碗洗いで手が腫れて動かしにくくなるとあります。多くの方は茶碗を洗う際にはお湯を使いますので手も暖まります。血管が拡張しての腫脹が増悪しているのかもしれません。また、茶碗洗い動作が下垂手となるため浮腫が増悪しているのかもしれません。
年齢が不詳ですが「旦那さんと息子さんにサポートしてもらいながら」とありますので、50歳前後でしょうか。閉経期の女性、腱鞘炎、手の腫れとなれば手根管内圧が高まっての手根管症候群も推測されます。

 冷たいものに触れると肘内側に叩打痛とあります。肘内側は尺骨神経が走行します。冷たい物に触れて筋緊張が増して尺骨神経に圧迫が入るのでしょうか。

 色々と推測できますが、腱鞘切開術後の感染では、浮腫と腫脹、関節拘縮、腱癒着が想像できます。浮腫は高挙手を徹底させ、腫脹は熱感を併発しますので20度の水温で冷却します。冷やすと痛みが増すとありますが、今の時期の水道水は15度前後ですので冷たすぎます。熱感があれば冷却をお勧めしますが、逆に冷たいようでしたら体温位の温水(36度)で温めて自制内の関節可動域を健手で行わせるのが無難に思います。

 情報が限定的なのでこれ以上はお伝えできません。
 症例の主訴。浮腫と腫脹・熱感。示指、手関節などの自他動の関節可動域。しびれや感覚障害の範囲。疼痛部位などをお知らせいただければ、もう少し踏み込んだアドバイスができるかと思います。
2017. 02. 12  
 セラピィを施す中でとても大切なことは、患者自身がどのような病態にあり、どのように自分の障害手を取り扱うべきかを理解することです。そのためにはセラピスは、「自分が患者を治す。治してやる。」というようなセラピスト主導であってはならず、自己管理方法や自主トレの方法の指導に時間を費やす必要があります。
 
 病態によっては1・2回の治療で症状が緩解することもありますが、半年から年単位を要することもあり、または、セラピィに抵抗を示すため最終的に観血的治療を選択されることもあります。

 私は治療をある意味で“拘束”だと思っています。
 週1回1時間の治療でも患者さんの1週間のスケジュールに半ば強引に入り込みます。来院するためには移動時間や前もっての夕飯の支度、通院手段の確保、仕事の割り振りなど治療とは別の解決しなければならない事柄も多くあります。
 そのような事情があることを医療従事者は想像すべきです。想像することによりセラピィの効果を高めるためにどうすべきか考えるものです。そうすると今回のテーマに立ち返ることになります。
 病態によっては長期間を要することもあり、これらをやり繰りすることは容易なことではありません。ですから、この拘束から患者さんを開放しなければなりません。しかも、治療効果を得ながらにして。的確な自主トレが出来れば通院頻度は少なく済みます。

 セラピストは患者が来院しなければ目的は果たせません。しかし、必要な回数の通院が可能な患者は決して多くはありません。労災や自賠の患者では比較的通院は容易ですが健保では仕事が優先されるため難しくなってしまいます。

 遠方のため通院手段がない、仕事が休めない、介護を必要とする家族がいるからなど、通院困難な理由はたくさんあります。
 しかし、患者側の理由ばかりではありません。セラピスト側の理由もあります。総合病院では単価の高い脳血管障害の予約枠を広げている施設が多いため、手外科の運動器リハの患者は予約が入りにくい、または限定的な回数となっているようです。手外科医から処方が出ても月に数回のリハビリでは術後の合併症は予防どころか有効なリハビリさえ受けられないこともあるのではないかと危惧致します。

 患者が通院して来ないから、予約が採れないからという理由で、拘縮手になっても許されるものではありません。
 
 「退院したら一人では通院できないから、主人か娘に仕事を休んでもらい車で送ってもらわなければならない。」
 「主人が高齢のため免許を返納した。便が悪い所に住んでいるからタクシーで通います。往復で5千円位。」
 手を治すのも容易ではありませんが、通院もまた大変です。

 問題解決は入院中の自己管理や自主トレの徹底指導だと考えます。
 自己管理法に加えリスクの管理もお伝えすべきです。
 併せて、必要なスプリントを作製します。患者によっては複数のスプリントを要しますので、どの時期にどのようなデザインのスプリントを作製するかを検討します。

 “治してもらう”から“一緒に治す”、主役は患者さんです。セラピストが血気盛んに治すものではないものと思います。
2017. 01. 09  
 神経損傷についてわかりやすくまとめて頂いていて大変助かっております。1点わからないところがありましたので、教えてください。

 最後の下線部に

 つまり、受傷直後であれば応答収縮を認める可能性がありNeurotmesisと判定してしまいますので、必要あれば10日後に再度検査する必要があります

とありますが、受傷直後に応答収縮が認められる場合はNeurotmesisでは無く、Neurapraxiaという理解で正しいでしょうか?

お忙しいところ恐縮ですがよろしくお願いいたします。




 ご質問ありがとうございます。
 2010年12月10日のブログ記事ですね。

 NeurotmesisとAxonotmesisは軸索断裂、Neurapraxiaは脱髄です。軸索断裂では断裂部位(損傷部)より末梢でWaller変性が生じます。このWaller変性は断裂直後にぱっと変性するものではなく10日前後の時間を費やし変性すると報告されています。 つまり、軸索障害直後はNeurapraxiaと同じように応答収縮が生じます。
 NeurapraxiaでもNeurotmesisでも受傷直後は受傷部より遠位部では支配筋の応答収縮が認められます。時間の経過によりWaller変性が完成し応答収縮が認められなくなるのがNeurotmesisです。


 ある前骨間神経障害例です。
 発症翌日に受診されました。長母指屈筋、示指の深指屈筋のMMTが「0」でしたが、長母指屈筋と方形回内筋の複合筋活動電位は導出されました。しかし、2週後には複合筋活動電位の振幅幅が低下しており、伝導ブロックと軸索障害が合併した状態と判定できました。
 この2週間にWaller変性が生じ振幅幅が低下し、軸索再生には時間を要するだろうと推測できます。


 もう少し説明をすると、
 以前に読んだ文献でマッチ棒の太さの神経幹内には1000本の軸索があるとのことです。出所が不明ですので参考までにしておいて下さい。
 この1000本の軸索が全て断裂し変性するとは限りません。混在する不全麻痺もあります。
 ちなみにNeurapraxia、Axonotmesis、Neurotmesisは、軸索1本の状態を示しておりますので1本の神経幹を指しているものではありません。

 神経幹伝導検査は応答収縮を視診するので客観的な数値は出せませんが、複合筋活動電位を導出できない環境にいるセラピストにとっては力強いツールの一つです。
2017. 01. 06  
 昨年は、症状(symptom)と徴候(sign)を意識した年でもありました。

 症状は患者側からの訴えであり主観的な内容で、徴候は医療従事者が患者の心身から得られる客観的な事象です。ですから、私たち医療従事者は症状に関しては患者の訴えに頼らざるを得ませんので傾聴する姿勢が大切であるということになります。
 徴候は刺激に対する反応です。陽性とか陰性とか、健側と比べてどうなのかを観るものです。徴候は患者が発する情報です。せっかく情報を発していながら情報収集側に知識がないだけに、興味がないだけに見逃してしまうことがありますので、一つでも多くの徴候を収集する努力が求められます。


 患者の訴えを徴候で確認する。


 しびれを訴える例では、そのしびれが何を意味しているのかを確認する必要があります。患者と医療従事者間での認識の共有です。しびれは必ずしも患者と医療従事者間で一致している症状とは限りません。しびれの多くは末梢神経障害由来の症状ですので、その症状を支持する徴候を見つけ出さなければなりません。

 母指・示指・中指のしびれであれば、チネルサインで部位を特定していきます。その他の徴候、ここでは誘発検査ですが、Phalenテストや神経幹圧迫検査などで手根管症候群(CTS)の徴候の有無、perfect “O” ringで長母指屈筋と示指の深指屈筋、短母指外転筋の筋力低下の有無を確認します。

 出来れば客観的な数値として神経伝導速度検査を行っておく必要があります。治療前後での効果判定するためにも客観的な数値は必要です。
 握力やピンチ力、VASなどの数値で表せるものは測定しておくべきです。


 交通事故による外傷性胸郭出口症候群(TTOS)例で四肢のしびれを訴える方がおります。そのような例に対して坐骨神経に緊張を加えると斜角筋の緊張感と上肢のしびれが増悪することがあります。これも一つの徴候だと考え重要視しております。刺激に対する反応。誘発で陽性ですので、そこには陽性となる理由があるのです。
 末梢神経は基本的に深部組織に固定されない滑走性を備えた組織です。坐骨神経を介して脊髄を尾側方向に牽引すると腕神経叢は椎間孔に引き込まれるように近位方向に滑走させられます。腕神経叢が斜角筋により絞扼されていると腕神経叢の緊張が増すために症状が誘発されます。


 手の浮腫と腫脹、熱感、こわばり、痛み、可動域制限を認めるStiff hand。
 腱鞘炎由来のStiff handですがCRPSと診断されることもあります。CRPSを除外するためにも腱鞘炎の徴候を探し出さなくてはなりません。腫脹と熱感、関節可動域の制限、A1プーリーの圧痛、MP関節の過伸展制限、腱通過障害。
 CRPSは稀な疾患であるため対応が遅れる場合があります。痛みのコントロールが容易でない例では過剰反応と指摘されるかもしれませんが、まずはCRPS疑いで扱わなければなりません。
 腱鞘炎由来のStiff handは医療従事者が意識さえしていれば容易に診断することができます。外傷性でも非外傷性でも生じます。 

 橈骨遠位端骨折後の症例で何となく手がこわばって、腫れぼったくて、熱っぽい手の方はおりませんか?それが腱鞘炎由来のStiff handなのです。

今年は脊椎疾患関連の徴候を学び、TTOSに合併する下肢のしびれの病態を解き明かせたいと考えております。

今年もよろしくお願いします。
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プロフィール

阿部幸一郎

Author:阿部幸一郎
作業療法士、認定ハンドセラピスト

 日常の臨床で手のリハビリに携わるセラピストを応援し、自分自身も切磋琢磨することを目的に、2011年7月にこのHAND maintenance studioを発足致しました。
 特に、指導者がいないセラピスト、数少ない手外科の患者をどのように診ていいのか迷うセラピスト、総合病院で手外科に専念できないが興味があるセラピストなどを応援します。
 そのため定期的な手のリハビリテーション(ハンドセラピィ)に関するセミナーを企画開催しております。
 また、手のことでお悩みがある方に対しては相談や運動指導を直接行っております。
 ご遠慮なく、訪問して下さい。

Twitter:@hand_abe(フォローをお待ちしております)

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