2017. 05. 07  
女性ホルモンと腱鞘炎

 腱鞘炎は手の使用過多(オーバーワーク)で発症すると言われておりますが、いかがなものでしょうか?
 間違いではありませんが、そればかりではありません。

 経験則で更年期女性に発症することは周知のことだと思います。

 閉経前後の女性では、血中のエストロゲンが減少しております。この減少により腱や滑膜は腫れてしまい、家事や仕事、ガーデニングや裁縫などで手を使用すると腱鞘炎が生じてしまいます。閉経前には問題がなかった方がほとんどです。つまり、エストロゲン減少により日常生活での手の使用状況がオーバーワークとなり腱鞘炎が発症してしまいます。

 閉経女性の他に、妊婦さんであったり、乳離れが出来ていない子を持つお母さんであったり、婦人科疾患の既往歴があったりと、女性の身体が女性ホルモンにより影響されることを我々セラピストは理解する必要があります。

 妊婦さんや授乳中のお母さんではホルモンのバランスは戻りますが、閉経後の女性ではそのままとなりますので予後が異なります。この違いはとても大きいものです。

 腱鞘炎の症例で手根管症候群を合併する例が結構おります。滑膜の腫れという共通した病態の表れだと思います。
 手根管症候群の2・3割にばね指が合併すると報告されていますが、ばね指は腱鞘炎の病期分類ではgrade3に過ぎず、腱鞘炎の圧痛から通過障害、関節拘縮を含めると自験例では7割前後になります。

 腱鞘炎でしびれの自覚症状がない方の複合筋活動電位を測定してみると、短母指外転筋の終末潜時が延長している例があります。手根管内圧の亢進状態です。放置していると将来的に手にしびれが生ずると思います。つまり、手根管症候群の発症です。

 ブシャー結節も腱鞘炎が引き金になっているという報告があります。
 女性に圧倒的に多い。多くは両側発症。左右対称的に発症する比率は70%弱。職業的な使いすぎには無関係。利き手側に多いとは言えない。
 腱鞘炎の病態に類似する気がするのは私だけでしょうか。
 PIP関節の変形性関節症で、疼痛と腫れ、変形、関節可動域の制限が生じます。エストロゲンの低下により腱が腫れ、その腱が通過する腱鞘も腫れると腱の通過障害が生じてしまいます。特に浅指屈筋腱の滑走制限によりPIP関節の伸展制限が生じてしまいます。

 組織が腫れている状態では保存療法としてのセラピィによる効果は得られますが、器質化、線維化してしまうと効果が得られにくくなり、早期発見早期治療がこの領域でもいえるのだと思います。
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2016. 10. 22  
 リウマチの症状には関節の痛み、腫れ、変形などがありますが、“手のこわばり”も必発の症状の一つです。

 現職では手術後の後療法でリウマチの手を診ますが、手術をしない保存的治療としてのリハビリを行う機会がありませんでした。
 右手を手術して後療法を行っている方の左手(非手術側)を診る機会があり、非手術側から“手のこわばり”を考察します。

 “手のこわばり”から連想できることは腱鞘炎です。
 この腱鞘炎からリウマチの方の非手術手を観察しますと、腱鞘炎を裏付ける所見を見出すことが出来ます。

 手掌の腫脹と熱感。A1プーリーの圧痛。MP関節の伸展制限。指の屈伸に伴うクリック感。こわばり。

 腱鞘炎によりA1プーリーが拘縮すると掌側板に伸張制限が生じます。この伸張制限によりMP関節の伸展に制限が生じます。
MP関節の伸展制限が強いとMP関節の伸展力が中央索から中節骨底背側に伝わりPIP関節の伸展力が増し過伸展へと変化してしまいます。
また、このような内在筋マイナス肢位の常態化により骨間筋に拘縮が生じると尚更MP関節の伸展制限が強調されてしまいます。

 この内在筋拘縮がスワンネック変形やMP関節の掌側脱臼に寄与するのだと考えます。
 MP関節の掌側脱臼で人工関節を置換する例では内在筋の不可逆的な拘縮を認めます。
 
 こわばり感が生じた段階で腱鞘炎を強く疑い腱鞘炎対策を始めることが必要だと思います。

 腱鞘炎を緩解させようとしてついやってしまうのが、温熱療法と繰り返される自動屈伸運動です。

 拡張している血管を縮小させるために冷やすのに加熱してしまっては、血管を拡張させ透過性を亢進させてしまいます。

 繰り返される屈伸運動では、腫れて狭窄している腱鞘が腱滑走によりより扱かれ炎症が助長されてしまいます。

 リウマチという疾患を考慮して関節可動域の拡大を図る必要があります。
MP関節の過伸展の拡大により掌側板を伸長しA1プーリーの拘縮を緩めます。リウマチに罹患していない腱鞘炎の手と違う点は、PIP関節に過度な伸展を入れないようにすることだと思います。MP関節単独の過伸展運動を心がけます。

 薬物療法の進歩によりリウマチは治ると言われております。
しかしながら、発症してから緩解するまでの間には多少なりとも関節はダメージを受けてしまいます。過度な運動により腱鞘炎や関節炎の発症が危惧されますので、運動後のこわばり感や熱感への配慮は必要で、面倒でも日々のメンテナンスは欠かせません。
2013. 10. 18  
 手指屈筋腱狭窄性腱鞘炎(以下、腱鞘炎)に対しては、腱鞘内注射、腱鞘切開術が行われておりますが、保存療法としてのセラピィはあまり周知されていないようです。この腱鞘炎に対する保存療法としてのセラピィは既にブログに掲載しておりますのでそちらを参照して下さい。

 今回は腱鞘切開術後のセラピィについてお話していきます。つまり後療法です。
 腱鞘炎により腱の通過障害が生じ、二次的にPIP関節の拘縮が生じるという病態と理解して下さい。
 狭窄した腱鞘を切離するで屈筋腱は絞扼から解除され腱滑走がしやすい状態となります。しかし、腱鞘炎が長期に及んでいる場合には深指屈筋腱と浅指屈筋腱が癒着している例もありますので、これを剥離する必要もあります。ここでは腱癒着を予防することがセラピストに求められてきます。深指屈筋腱と浅指屈筋腱の分離運動も併用する必要があります。

 次に二次的に生じる拘縮ですが、主にMP関節とPIP関節にじます。
 MP関節では過伸展が制限されます。この制限はA1プーリーに起始する掌側板の拘縮に起因します。掌側板の拘縮を取り除くにはMP関節の他動伸展運動が行わなければなりません。

 PIP関節では伸展制限と屈曲・伸展制限が観られます。
 ①関節自体の拘縮
 ②屈筋腱の滑走制限による腱固定効果
 ⇒MP関節伸展によりPIP関節の伸展制限が強調され、MP関節屈曲位ではPIP関節 の伸展制限が減弱することで確認できます
 ③内在筋拘縮
 ⇒MP関節伸展によりPIP・DIP関節の屈曲制限が強調され、MP関節を屈曲するとPIP・DIP関節の屈曲制限が減弱され ることで確認できます。

 ①に対してはPIP関節の可動域拡大を図り、②であれば浅指屈筋腱の滑走の拡大(PIP関節を他動的に伸展しつつMP関節を伸展する)、③では内在筋の伸長(MP関節を可及的に伸展位に保持しつつPIP・DIP関節を屈曲させる)を併用しなくてはなりません。

 とにかく、MP関節の伸展拡大をしていかないと内在筋優位の手となり、内在筋優位での手の使用(指腹つまみ:MP関節屈曲+PIP・DIP関節伸展位)から次の動作に移行する際に、PIP・DIP関節の屈曲がしづらいと訴える例もあります。

 屈筋腱滑走運動は、十分にMP関節の過伸展を拡大しつつ屈筋腱を全体的に滑走させる必要があります。スプリントによる持続的牽引も効果的です。
 他動的に末梢方向へ滑走させましたら次に自動屈曲で中枢側に滑走させます。
 自動屈曲では他動的に屈曲位としてその位置で自動屈曲させます(Stop(Place) & hold ex.)。この時腱鞘切開部に痛みや違和感を訴える例がありますが、ある程度頑張って頂きたいところです。
 これはA1プーリーという腱鞘を切開していますのでBowstringing(腱浮き上がり現象)傾向からくる症状だと理解しています。腱鞘切開術の腱鞘はA1プーリーで靭帯性腱鞘です。この靭帯性腱鞘の役割は自動屈曲の際に屈筋腱を浮き上がらないようにして効率よくPIP関節、DIP関節を屈曲させるという機能的役割があります。ですから、腱鞘切開すると患者さんにとっては初めての体験となるBowstringingの違和感や痛みが生じます。
 いつかは落ち着くのだと思うのですが、これを回避しているとどうなるでしょうか?
 答えは屈曲不全となり腱鞘切開術後の症例で多くみられる障害パターンです。
 これがつらいようでしたら、腱鞘切開部ないしその近位部を圧迫しますとBowstringingの減弱がえられますので試みて下さい。

 基本的なところですが、術後の手に認められる熱感や腫脹、浮腫は当然しっかりと対応する必要があります。

 私自身、両手の示指と中指の腱鞘切開術を経験しております。治療者と患者の両方から立場から得られた考察です。
2012. 06. 05  
 A1プーリーは、MP関節の掌側板(volar plate)から起始しています。この掌側板は最大伸展位から最大屈曲位にしたときに短縮し、最大屈曲位では最大伸展位の1/3から1/2まで短縮すると言われております。これは伸張性を持たないPIP関節の掌側板とは決定的に異なる点です。

 掌側板はMP関節の過伸展を防止する最終的な構造ですが、過伸展には個人差があります。男性よりも女性が過伸展し、90度近くまで過伸展される例も少なくありません。この掌側板が拘縮してしまいますと伸張性が損なわれるためMP関節に伸展制限が生じてしまいます。

 この掌側板の特徴が、腱鞘炎由来のStiff handに対するセラピィのヒントとなりました。
 腱鞘炎ではA1プーリーは肥厚し内腔が狭窄してしまいます。このプーリーが肥厚するという事実はプーリーの拘縮であり、拘縮したプーリーが起始する掌側板は伸縮性が損なわれ、MP関節に伸展制限が生じるものと考えられます。

 腱鞘炎に対して腱鞘切開術を施行した例で、MP関節の過伸展が制限されていることをしばしば経験することです。腱鞘切開は腱鞘炎の手術的治療として腱の通過を目的に行なう手術ですが、掌側板には操作が加わらないため掌側板の拘縮は残ったままとなります。

 腱鞘炎由来のStiff handに対するセラピィで、私が重視したのがMP関節の過伸展制限です。MP関節の過伸展を得るということは掌側板の伸張を得ることであり、これによりA1プーリーの拘縮を改善させ、スムーズな腱滑走を得ることができました。
 セラピィ中に弾発現象をしばしば経験します。これは通過できなかった腱腫瘤がA1プーリーを通過したためであり、私の病期分類ではgrade5からgrade3へと腱滑走が改善したことになります。

 現在、自分に課していることは単独指の弾発現象を腱鞘内注射、腱鞘切開をせずに徒手的に改善させることです。腱鞘切開といえども、瘢痕拘縮や腱癒着を完全に回避することができません。セラピストは後療法と保存療法の二足のわらじをはいています。セラピストは自ら開拓していかなければなりません。
2011. 10. 28  
 ご無沙汰しておりました。久しぶりにブログを更新します。
 
 前回の内容と重なるところがありますが、今回は“ばね指”を考えてみます。

 ばね指は、屈筋腱狭窄性腱鞘炎と言われるように、A1プーリーが狭窄(肥厚し内腔が狭くなること)し、肥厚した屈筋腱がこれにひっかかって腱は通過障害を来たしてしまいます。ひっかかってばねのようにバツンと指が伸びることから“ばね指”と言われております。このばね指は“弾発現象”とも言われ、私の病期分類ではGrade3に分類されます。

 腱鞘切開術にて通過障害が改善されます。でも、これで完治するとは思われません。通過障害だけは取り除かれますが、こわばり感などの違和感は多少なりとも残るのではないでしょうか。私自身も腱鞘切開術を4指に施行しておりますので実体験から理解しております。

 手指屈筋腱狭窄性腱鞘炎はMP関節の掌側に位置する靭帯性腱鞘のことでA1プーリーとも呼ばれております。
 A1プーリーは、MP関節の掌側に位置する掌側板から起始します。この掌側板はMP関節屈曲時の長さが伸展時には倍になるくらいに伸張されます。ということは、A1プーリーも掌側板の伸張に伴って長軸方向へ伸張されるということです。

 屈筋腱狭窄性腱鞘炎は、A1プーリーの内腔が狭窄されることが強調されていますが、A1プーリーの拘縮を考えていかなければなりません。これに対してセラピィストは何が出来るのかを考えてみましょう。

 腱鞘炎由来のstiff handではMP関節の過伸展が制限されます。事実として認められます。
 原因は、A1プーリーが持続的な炎症を経て拘縮してしまい、A1プーリーの起始部の掌側板の伸張性が妨げてしまい、MP関節の伸展では十分に伸張されるはずの掌側板は拘縮しているのでMP関節の過伸展は制限されてしまいます。MP関節を過伸展させるということは、掌側板が伸張され、結果的にはA1プーリーも伸張されます。これが全てではありませんが、とても重要なことです。

 腱鞘切開術を受けた方で、MP関節の過伸展制限が残存する方がおられます。A1プーリーのみの開放ですから、掌側板の拘縮は残存しておりますので、MP関節は過伸展の制限が残ってしまいます。これが術後のはばったい原因の一つではないかと考えます。

 先日、他医にて腱鞘切開術をされた方が来院し、CTSの検査の依頼がありました。
 主訴をよく聴くと“しびれ”でなく“こわばり”でした。手は浮腫を呈しており、手掌に熱がこもっておりました。MP関節の過伸展制限も認められました。
 結局、神経伝導検査にてCTSは否定されました。
 自主トレとして、MP関節の過伸展運動(掌側板のストレッチ)、冷却、高挙手を指導しました。

 病態とそれに対する治療には、CTSのように滑膜の浮腫を取り除く直接的な治療と、滑膜の浮腫はそのままで正中神経の除圧を目的とした手根管開放術にみられるような間接的な治療とがあります。それは、ばね指(腱鞘炎)においても同様だと思われます。間接的な治療のみでは症状の改善には限界があるものと思います。患者立脚型の機能評価のあり方を考えると、おのずと何が求められているのかが分かると思います。
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プロフィール

阿部幸一郎

Author:阿部幸一郎
作業療法士、認定ハンドセラピスト

 日常の臨床で手のリハビリに携わるセラピストを応援し、自分自身も切磋琢磨することを目的に、2011年7月にこのHAND maintenance studioを発足致しました。
 特に、指導者がいないセラピスト、数少ない手外科の患者をどのように診ていいのか迷うセラピスト、総合病院で手外科に専念できないが興味があるセラピストなどを応援します。
 そのため定期的な手のリハビリテーション(ハンドセラピィ)に関するセミナーを企画開催しております。
 また、手のことでお悩みがある方に対しては相談や運動指導を直接行っております。
 ご遠慮なく、訪問して下さい。

Twitter:@hand_abe(フォローをお待ちしております)

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